遊心逍遥記

遊び心で本の森を逍遥し、その時の思いを残しておこうと始めました。

『百人一首解剖図鑑』  谷 知子  X-Knowledge

 本書はエクスナレッジの解剖図鑑シリーズの1冊で、2020年12月に刊行されている。
 裏表紙の折り込み部分に、4冊の解剖図鑑の広告が載っているので、本書が第5弾なのかもしれない。
 新聞広告で最初に目に止まった『源氏物語解剖図鑑』を私は先に通読した。その時はシリーズの何冊目かは意識していなかった。

 本書もまた解剖図鑑シリーズの一環として、本文・説明とイラストがうまくコラボした図鑑である。「百人一首」への入門書として読みやすいのではないかと思う。
 何と言っても、イラストや図がふんだんに使われているので、それがワンクッションとなり読み手にとって百人一首の世界に入って行きやすいと思われる。
 一方で、本文並びに説明は、教養書の水準として遜色はないと思う。百人一首の歌の語義を含め解釈・訳を主体にした百人一首本が文庫本として数多く出ている。例えば、学者による解説本だけで、少なくとも、島津忠夫・久保田正文・安東次男・有吉保・鈴木日出男・吉海直人、各先生の著書が各社から出版されている。手許の書棚にある文庫本を出版年次順で列挙してみた。それらと対比すると、本書は歌の解釈を掘り下げて説明するという方向性とはスタンスが明らかに異なっていておもしろい。


 そこで、通読した感想を含めて本書の構成とそのまとめ方をご紹介したい。
 序章では、百人一首の背景情報として基礎的なポイントを簡潔に解説しているので、入門書として入り込みやすいと思う。
 たとえば、「定家は恋と秋がお好き」という見出しで歌のテーマと詠んだ場所をそれぞれ分類して円グラフ表示にしている。「日本全国が舞台」と、地図で当時の国名を示し、地域別円グラフが示してある。
 「和歌のツボは4つの表現手法」だとして、「枕詞・序詞・掛詞・縁語」という表現方法があることや、見立てと本歌取りということにも触れている。
 尚、第97番目の定家の歌の見開きページでは、「本歌取りのルール」があったことと、具体的なルール内容を箇条書きで説明している(p177)。本歌取りの意味は知っていたが、ルールがあることやその内容までは知らなかったので、私には大いに参考になった。
 なぜ、百人一首が生まれたかの経緯にまずふれている。百人一首と『百人秀歌』の違いにも言及している。百人一首に関わる氏族と詠者の身分の大枠も説明されている。百人一首は歌枕を詠んでいるものが多いという点も序章で触れている。
 序章の最後に、< 本書の見方 > を説明し、ページの構成について説明している。

 「和歌は本来上の句と下の句とを分けて理解するものではない」と < はじめに > で述べる一方で、漫画『ちはやふる』世代や、かるたが上の句と下の句を分けていて、それに親しんでいる点も考慮している。1ページの下半分に『百人一首』の歌の上の句と下の句それぞれの意味をイラストで表現し、その傍に、一首の歌を解釈した訳文が添えてある。絵のイメージと訳文の相乗効果を生みだし、読みやすくなっている。ページの一番下に、主要語の語釈も記載されている。だが文字が小さいのが難点。若者には支障がないだろうが、高年齢者にはちょっときつなぁ・・・・と感じる。
 ページの上半分には、当然ながら歌番号・作者・和歌がまず右上に記されている。その続きに、その歌がどういうテーマを扱ったものかについて、詠者の意図とその背景が簡潔に解説されていく。歌の解釈とその文意の現代語訳に相当するものが最初にくるのではないという構成がおもしろい。その部分はページの下半分なのだ。
 また、この下半分には、詠者の家系図も簡略に図解されている。
 

 一首を見開きの2ページでまとめているものと1ページだけでまとめているものがある。見開き2ページを使用する箇所では、各歌の時代背景、逸話、歴史などの関連事項が、またその時代の社会的背景、政治体制、関連する文学的知識などが図解され説明されている。家系図や人間関係を図解し、詠者間の関係をイメージしやすい工夫がなされている。
 例えば、第1番天智天皇は、「理想の天皇像」「平安王朝のルーツ」「Topics 権力の変遷①律令」「ファッションも質素?」という見出しで図解・説明されている。
 第4番山辺赤人は、「富士山は煙をあげる活火山」「長歌と反歌」。
 第21番素性法師は、「有明の月と月の満ち欠け」「貴人が僧になる理由」「皇族・摂関家出身の高僧」。
 第35番紀貫之は、「土佐日記の作者」「貫之と『古今集』」。
 第56番和泉式部は、「華麗なる和泉式部の恋の遍歴」「女房の名前のルーツ」。
 第57番紫式部は、「百人一首に影響を与えた『源氏物語』」「親子で活躍、娘も女房」
 第77番崇徳院は、「保元の乱の勃発」「百人一首の天皇たち」「Topics 権力の変遷③院政」・・・・という具合である。イラスト+説明なので、とっつきやすいと言える。
 
 百人一首を第1番から第100番まで順次取り上げている点は同じだが、撰者の藤原定家が撰歌を基本的には時代順に並べている点を踏まえて、年代区分を加えた編集をしている。
 < 1章 飛鳥・奈良時代 >       (1~7)
 < 2章 平安時代前期(律令期)>  (8~25)
 < 3章 平安時代中期(摂関期)>  (26~64)
 < 4章 平安時代後期(院政期)>    (65~92)
 < 5章 鎌倉時代 >         (93~100)
 こういう時代の区切りでの解説書は初めて目にした。(括弧内の番号は百人一首の歌番号)
 
 各章末尾には、1ページのイラスト入り解説コラムがある。章順に見出しをご紹介しておこう。「和歌のはじまり」「六歌仙と三十六歌仙」「出典となった勅撰集」「百人一首と歌かるた」「日本独自の平安装束」が取り上げられている。

 巻末には「百人一首歌人年表」と「百人一首歌人の系図」が掲載されている。

 百人一首の各歌とその歌が生み出された社会的政治的文化的な時代背景を総合的に浅く広く知って、次に百人一首の世界に一歩深く入っていく上で、便利で役立つ図鑑だと思う。
 

 ご一読ありがとうございます。    【覚書 2022.9.8(木) 記】

 

 本書を読み、関連事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
 (掲載時点の一覧のうち、2026.5.12 時点でアクセスを確認できた項目。一部修正)
ちょっと差がつく『百人一首講座』  :「小倉山荘」
小倉百人一首一覧   :「近江神宮」
百人一首  :ウィキペディア

百人一首全首一覧と意味、解説。小倉百人一首人気和歌ランキングベスト20も!

      :「四季の美」
藤原定家  :ウィキペディア
藤原定家  :「コトバンク」
「小倉百人一首」のプロデューサー【藤原定家の生涯】(前編)  YouTube
「小倉百人一首」のプロデューサー【藤原定家の生涯】(後編)  YouTube
令和和歌所  ホームページ
  百人一首の物語
  和歌の入門教室(修辞法)「掛詞」
  和歌の入門教室(修辞法)「縁語」
和歌入門附録 古典的修辞法 枕詞  :「やまとうた」
序詞とは  :「短歌のこと」
歌枕    :ウィキペディア
歌枕の一覧 :ウィキペディア
[古典] 小倉百人一首ゲーム!! Ver 2.27 ⇒小倉百人一首が無料で遊べるゲーム
「ちはやふる -上の句・下の句-」予告    YouTube
「ちはやふる -結び-」予告        YouTube

 

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【 読書録整理函 】

gooブログで2011年8月から「遊心逍遥記」を開設。10年余続けた時点でログインでミスをして、ブロックがかかってしまい、復旧はできませんでした。それで、「遊心逍遥記その2」を新たに開設して継続。こちらはデータ移設が完了。
旧ブログ記事はその後、問い合わせもしてみましたが、データの移設不可という結論に。
読書感想・印象記は原稿を書いた後にブログ記事を掲載していましたので、当時の原稿はファイルとして残っています。

そこで、愛読作家の諸作品と手軽に参照したいものについて、カテゴリー別に抽出してまとめて、再掲載してみたくなりました。
「読書録整理函」として、私自身の記憶の引き出しづくりをしていきたいと思います。

掲載当時の読後感想・印象の本文を掲載いたします。どんな気持ちで読んでいたかの軌跡を残すためにも。再掲にあたり、凡ミス等に気づいた箇所は訂正を加えています。
当時、補遺としてネットで調べた事項を併載していました。ここには、アクセスが再確認できたものを併載します。

こちらもお読みいただければうれしいです。

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