遊心逍遥記

遊び心で本の森を逍遥し、その時の思いを残しておこうと始めました。

『決戦! 新選組』 葉室麟・門井慶喜・小松エメル・土橋章宏・天野純希・木下昌輝  講談社

 戦国時代を題材にした「決戦!」シリーズとは別次元の「決戦!」シリーズが発刊されている。『決戦!三國志』『決戦!忠臣蔵』に続き、三冊目がこれである。2017年5月に単行本が出ている。幕末動乱期を新選組の立場からとらえるのは時代を多面的にとらえる上で必然的な視点の一つだろう。
 尊王攘夷派に組みした当初の主体は、脱藩し渦中に身を投じた下級武士を含めて武士という階級に属する一群の人々だった。一方で、新選組は零落した元武士も居るが、町人身分から這い上がろうとして、幕府側に加わった有象無象の人々が寄り集った集団といえる。「壬生浪」と呼ばれ恐れられ、嘲られた「浪士組/新選組」が幕末に徒花として力をふるった。腰が引いた幕府側の多くの武士の実態に対して、相対的に目立つ存在になった。それ故、新選組の有り様は作家たちに様々な創作意欲をかき立てるのだろう。

 まず本書の特徴に触れておこう。葉室麟を筆頭に計6人の作家が新選組という組織集団の異なる局面を切り取って題材にしている。6作家の短編競作集。それぞれに異なる人物を主人公として中軸に据え、新選組の有り様を描く。6作家が題材とした人物とその行動状況を重ね合わせ、短編6作を通して眺めると、新選組の中核となった人物達の江戸から京への上洛段階から始まり北海道・五稜郭での新選組壊滅まで、新選組の行動の大凡の有り様が通覧できる。短編間で事象が重なる部分の描写は、結果的に当該人物を多面的に捉えるための糧になっている。

 それでは、収録された短編作品の順に、読後印象を含めてご紹介してみたい。

[鬼火]   葉室 麟
 中軸となる主人公は沖田総司。総司が京都、壬生の郷士、八木源之丞の屋敷で、七、八歳頃に遭遇した事件の夢を見てはっと目覚める場面から始まる。その夢は、今流にいえば、沖田を悩ませるPTDSとなっていて、彼の性格・情動を決定づけたものとして描かれている。興味深い視点である。
 総司の生い立ちと剣客に成長する背景が簡潔に描かれ、その上で総司が浪士組に加わり上洛し、京都に残留する経緯がわかる。京都に残留した浪士組の主導権争いの渦中で、総司が初めての<人斬り>を土方歳三に指示される。その対象は根岸派の殿内義雄。この時総司は斬れなかった。斬ったのは芹沢鴨。これが契機となり、総司と芹沢鴨との関係が深まる。壬生浪士組の基礎を作った芹沢鴨の行動と有り様から八木邸内で暗殺されるまでを総司を介して読者は知ることになる。総司が芹沢鴨を殺すことで終わる。
 沖田総司芹沢鴨を殺すことを通して己の感情を取り戻したという設定が興味深い。ここに至るプロセスが読ませどころといえる。

[戦いを避ける]   門井慶喜
 元治元年(1864)6月5日、亥の刻(午後十時)すぎ、新選組局長・近藤勇他が、旅籠・池田屋を御用改めと称し、急襲する場面を描く。ストーリーの中軸は近藤勇。このとき、沖田総司永倉新八藤堂平助など9名の隊士が居た。
 近藤が池田屋で対峙したのは熊本藩士松田重助。著者はこの時の近藤の思いを(斬りたくないが、逃したくない)と描く。その理由は、己の養子にした周平に手柄をたてさせたいという思いがあったからだ。近藤勇が周平を養子にした経緯をサブストーリーにしながら、池田屋事件が描かれる。
 興味深いのは、道場剣法での強さと人斬りの修羅場を対比させていることと、近藤勇が養子に手柄をたてさせたい人情にとらわれるところ。近藤の心理描写が読ませどころだ。

[足りぬ月]   小松エメル
 ストーリーの中軸は藤堂平助。平助が生い立ちについて昔話を語る場面から始まる。彼はその生い立ちから、立身出世をめざし、賢い男を己の頭に立てて、頭を盛り立てながら己の立身を目指そうとする。平助の考える筋書きが狂うプロセスを新選組内部の人間関係や考え方の複雑性を通して描いている。
 平助は近藤勇の試衛館の食客となった一人。その頃、試衛館には、永倉新八、沖田宗次郞(=総司)、原田左之助土方歳三などが居た。さらに斎藤一が時折現れる。清河八郎の発案にのり、試衛館一同は浪士組に参加し上洛する。
 平助が最初に己の頭と決めた男が山南敬助。山南が怪我をし後に切腹する羽目になると、平助は江戸に居る伊東甲子太郎を上洛するよう説得し、己の頭と定める。伊東が新選組を離れ御陵衛士隊を創設し後に近藤勇に粛清される経緯及び平助との関わりが描かれて行く。平助もまた御陵衛士隊の一人として新選組隊士との戦いの中で死ぬ。己のシナリオを遂げられなかった男の生き様が哀切である。

[決死剣]   土橋章宏
 ストーリーの中軸は永倉新八鳥羽伏見の戦いの初日、新選組は伏見奉行所に陣取っている。「永倉君。ここは君が死んでくれ」と土方に言われる場面が冒頭に描かれる。
 話は転じて、徳川慶喜大政奉還をし、京から大坂城に移る様を描く。戦おうとしない慶喜公をみて「何ゆえに戦うのか」と新八は近藤に問う。新選組のために戦い、己の剣を磨くことだけに専念する新八を著者は描く。隊士原田左之助との関わり、鳥羽伏見の戦いの実情、労咳で戦場に出られない沖田の剣を戦場に連れて行ってやると言い沖田と立ち合う新八の行動などが点描されていく。
 そして、ストーリーは再び鳥羽伏見の戦いに戻る。沖田との立ち合いを含めて、新八の戦う場面描写が読ませどころとなる。
 永倉新八が生き残った経緯に触れ、「大正の時代になって、ようやく仲間たちのもとへ還った」という文で著者は締めくくる。
 それで思い出した。未読なのだが永倉新八著『新撰組顛末記』(新人物文庫)を購入していたことを。

[死にそこないの剣]   天野純
 ストーリーの中軸は斎藤一山口二郎)。山口と名乗る斎藤が、会津にて前会津藩主松平肥後守容保に呼ばれて対面する場面から始まる。鳥羽伏見の戦いに敗れ、新選組会津藩預りとなる。そこで会津のために戦うという状況を描く。
 鳥羽伏見の戦い前から怪我をしていた近藤勇や病人の沖田総司は戦線離脱。副長の土方歳三が実質の長として新兵集めをすると共に隊を取り仕切っている。会津では、白河城南方の白坂口で斎藤が隊長として指揮をとる。会津藩の元家老が総督として稚拙な指揮をする。その下での負け戦の状況が描かれて行く。
 土方は会津藩を見限り、榎本率いる旧幕府艦隊と連携し、蝦夷地に渡り函館を押さえ、蝦夷地全土を徳川領とする構想に転じて行く。斎藤は新選組を抜け、会津に残って戦う道を選択する。久米部正親、志村武蔵ら14名が斎藤の士道に感銘しともに戦うという。
 このストーリーのおもしろさは、その後の顛末の意外性にある。

[慈母のごとく]   木下昌輝
 ストーリーの中軸は土方歳三土方歳三の姿は上記の各短編に点描的に登場する。それぞれの著者がそれぞれの視点から土方を描いている。土方はそれだけ近藤勇の片腕として新選組の中枢に存在したことになる。
 その土方を主体にしたストーリーは、鳥羽伏見の戦いにおいて、伏見奉行所で土方が隊士の島田魁と会話する場面から始まる。「鬼がいねえから、幕府は弱いんだ」というのが土方の見方。この時点で、近藤勇は陣中にいない。御陵衛士の残党に狙撃され、怪我をして治療中なのだ。そのため、これ以降土方が新選組の指揮をとる立場になる。
 伏見奉行所に陣取っての戦いで、土方は鬼の副長だった。鳥羽伏見の戦いで敗れた後、新選組は一旦江戸に戻り、各地を転戦し負け戦をしながら、最後は函館の五稜郭に籠もる。それぞれの戦いが描かれる。薩長軍(官軍)と幕府軍新選組の装備面での対比や戦いぶりの対比が描き込まれていて、興味深い。根底には土方が新選組をどのように指揮するか、とりまとめるかがテーマになっている。 
 江戸に戻る幕府の軍艦上で、近藤は土方に言う。「だがな、厳しさだけでは隊はまとまらねえ」と。「戦に必要なのは、鬼だ。じゃないとまた負けちまう」と土方は思わず言う。
 近藤の代わりに新選組を取り仕切る土方から、鬼の土方の姿が消えていく。土方が鬼に戻るのは、函館山の味方を救うための最後の戦いにおいてである。
 
 新選組の存在は万華鏡のよう。少し視点をずらせて眺めると景色が変わる。6篇の中に見え隠れする近藤勇像自体が、見方によってどんどん変化するからおもしろい。同じ事が、土方歳三山南敬助伊東甲子太郎などにも言えそうである。新選組パート2があってもおかしくない。

 ご一読ありがとうございます。     【覚書 2020.2.17(月) 記 】

 

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【 読書録整理函 】

gooブログで2011年8月から「遊心逍遥記」を開設。10年余続けた時点でログインでミスをして、ブロックがかかってしまい、復旧はできませんでした。それで、「遊心逍遥記その2」を新たに開設して継続。こちらはデータ移設が完了。
旧ブログ記事はその後、問い合わせもしてみましたが、データの移設不可という結論に。
読書感想・印象記は原稿を書いた後にブログ記事を掲載していましたので、当時の原稿はファイルとして残っています。

そこで、愛読作家の諸作品と手軽に参照したいものについて、カテゴリー別に抽出してまとめて、再掲載してみたくなりました。
「読書録整理函」として、私自身の記憶の引き出しづくりをしていきたいと思います。

当時、補遺としてネットで調べた事項を併載していました。それらは割愛し、掲載当時の読後感想・印象の本文だけを掲載いたします。どんな気持ちで読んでいたかの軌跡を残すためにも。再掲にあたり、凡ミス等に気づいた箇所は訂正を加えています。

こちらもお読みいただければうれしいです。

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